G3 (凪) 【Jerk Around!】日常編 (凪) 【Jerk Around!】 「凪さんの恋愛失敗談を聞かせてください」 その顔に無邪気な笑みを浮かべ、不破犬君は言った。 「人の恥ずかしい過去をほじくるのか? いい趣味とは言えないな」 「じゃあ、これは時効だなってヤツを1つ。それで手を打ちます」 呆れた男だ。複数のネタを仕入れるつもりだったのか。 「時効か……。よし、良いだろう。では1つだけ。もし君が一千万円を手に入れたらどうする?」 突然突拍子のない質問を投げ掛けられた不破君は、怪訝にしながらも忠実に返事を寄越す。 「貯金、保険、株、旅行、親孝行、募金、趣味、身の回りの物を揃え直す、透子さんとのデート資金。 ……ぐらいですか。内訳は考えてませんけど、まぁ半分以上は貯蓄の方向で」 財形の見直しを1番に持ってくるあたり、実に彼らしい受け答えだと思った。 そしてデートの相手を潮透子さんと決めているところも。 「同じ質問を、昔されてね。『もし凪が一千万手に入れたらどうする?』って」 「あぁ、訊ねた相手は元カノですか。それで、何て答えたんです?」 「パーセンテージで答えてしまったんだ」 「パーセントで? え、例えば貯金を50%とか、投資に20%とか?」 「あぁ」 「うわ、それを瞬時に答える凪さんがすごいですよ。相手の方、ビックリなさったでしょう」 「面食ってたよ。でも、頭のいい子だった。気を取り直して耳を傾けてくれたんだ」 「でも、それがどうして失敗しちゃったんですか?」 「残の存在に気付いたんだ」 「ザン? あぁ、残りですか。全て足しても100%にならなかったんですね」 不破君の頭の回転もなかなかのものだ。俺は頷く。 「あぁ、1%残ってた。彼女はミュウミュウの財布をおねだりしてきたよ。 だけど、『妹にサマンサタバサのバッグを買うに決まっている』と言ってしまってね」 今でも覚えてる。 まずは呆けた顔をしていた。理解した瞬間、「はぁァ!?」と素っ頓狂な声をあげた彼女。 お嬢様学校に通ってるという話だったけど、つい、本当かな? と疑ったのは、別れる数分前の話だ。 久し振りに思い出して、なんだか笑えてきた。不破君も呆れた顔をしている。そしてこう言った。 「凪さん、それは振られます」 2013.05.05 2020.02.20 改稿 |